=== ArcMedia Magazine ===============================================    建築情報ネットワーク「ArcMediaマガジン」          第14号    1998/07/14発行  (隔週発行) ===================================================================== ■ArcMediaマガジンは、「まぐまぐ」を利用して、建築に関連した  様々な情報をお届けする電子メールマガジンです。 ご購読ありがとうございます。 さて、今回は前回の続編として「建築協定」と「地区計画」を取り上げます。 ================================== [ 1] 住民の自主的な総意により策定される「建築協定」 ================================== 地権者などの権利者同士が、建物階数や最高高さ、ごみ置き場規模、壁面位 置などを協議の上、「建築協定書」の形で文書化の上、民法上の協定(建築 基準法上に用意された準立法的制度)として締結するものです。 あらかじめ、市町村条例で「建築協定を締結できる」と定められている必要 がありますが、権利者間の同意が重要な要件となるのが、次に示す「地区計 画」とは異なる点です。 民法上の協定とはいえ、一旦、建築協定が公告されると、その後、協定区域 内の土地所有者となったような権利者などにも効力が及ぶようになっていま す。要は、相続や売却などが行われて、権利者が変わろうと、以前の「約束」 は保護されるということです。 但し、あくまでも「私法上の契約」であるため、違反を理由に行政庁が是正 命令を出したり、代執行を行うことはありません。また、建築協定基準その ものは建築主事の行う建築確認の対象とはなりません。 協定を実効力のあるものに維持するのは、協定者の互選により選出された、 委員会です。協定違反者が出た場合には、委員会の決定に基づいて、工事停 止の請求をしたり、裁判所に請求したりすることとなります。 つまり、建築協定を結んだからといって、無条件に環境が維持されるという 性格のものではなく、住民同士の「環境を維持しよう」という意志と努力が 必要とされるのです。 その意味では建築協定は「紳士協定」的な意味合いが大きいと言えましょう。 ================================== [ 2] 行政側の思惑で設定される「地区計画」 ================================== 建物や街の開発を規定する法律としては大きく「都市計画法」と「建築基準 法」の2つがあります。 簡単に言えば、「都市計画法」はマクロ的な視点から、「建築基準法」はミ クロ的な視点から規定しています。 が、この2つの視点からだけでは、画一的な網掛けとなりがちで、地区レベル の実情に合わせた臨機応変な対応が難しいことが問題とされてきました。 そこで、地区レベルで具体的な開発ビジョンを規定するのが「地区計画」と いうわけです。 国土計画から地方計画、市町村都市マス(都市計画マスタープラン)と細分 化されていく、各種都市計画の最小単位がこの地区計画であり、道路・公園 広場などの配置及び規模、建築物の形態、用途制限、最高高さ、容積率など を規定します。 上位となる「都市マス」が住民の合意の下に決定されるものとなっています が、地区計画の対象地区は、   1.市街地再開発事業または、相当規模の施設整備と併せて公共施設整備    がおこなれる場合   2.いわゆるスプロール市街地と呼ばれる、不良化しつつある市街地   3.現に健全良好な市街地で、悪化を予防すべき地区 となっており、行政側の視点による街づくりの必要性が前提にあるといえる でしょう。 また、この「地区計画」は、規制一本槍というよりは、用途制限や形態制限 を緩和する代わりに、高さや配列及び形態をそろえるなど「飴と鞭」論法で、 良好な街づくりへの誘導を行う手段として利用されることが多いことも特徴 です。 「行政が主体となること」また「飴と鞭の手段として使われることが多い」 の2点が、前述の「建築協定」と異なる部分と言えます。 この「地区計画」は都市計画法の一環として機能し、当該地区内では、建築 確認を提出する前に区市町村長まで各種届け出が義務づけられます。この時 点で計画が地区計画に適合しているかの確認が行われ、必要であれば設計の 変更などの勧告がなされることになります。 この辺も、委員が自主的に動かねばならない建築協定よりも、縛りが強いと いえます。 ================================== [ 3] まずは「建築協定」か ================================== 役所の都市計画課などに行くと、よく「建築協定のすすめ」といった類のパ ンフレットを見かけます。 インターネットでも多くの自治体が建築協定制度のPRを行い、啓蒙活動を行っ ています。 参考URL  大宮市   http://www.city.omiya.saitama.jp/center/action/system/400.htm  大阪市   http://www.osakacity.or.jp/Japanese/town/kyoutei/kyoutei.html  藤沢市   http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/~sidouka/kyoutei/hazime.htm 一方、地区計画は、縛りが強く強力な反面、都市マスなど上位計画との整合 性や、行政が主体となって権利者の同意を得るのに(議会を通すのに)時間 と、手間暇がかかることなどから、問題が強く顕在化しているか、区画整理 などのタイミングでないと乗り出しにくいという側面があります。 また、地区計画でも壁面位置や高さなどの制限をかけることが出来ますが、 位置づけからいえば、それは地区全体の街づくりビジョンから規定されるも のであり、マンション建設などを阻むための方策として地区計画を捉えるの はそぐわないでしょう。 やはり、一般的な住宅地において、良好な街並みを保全していくための方策 は「建築協定」が本命と考えて良いでしょう。 ================================== [ 4] 街づくりの困難さ ================================== とはいえ、既存の市街地では、様々な価値観をもった権利者が混在している ため、一筋縄でいかないのも事実です。 なにより、個人の最大の資産であり、生活の場である土地と建物が対象とな る制度です。そう簡単に権利者同士の価値観が合致するわけがありません。 が、街づくりというのはそんなものなんだと思いましょう。 協定一つ結ぶだけでも、大変な労苦が必要になって当たり前なのです。 この困難さを目の前にすると、「有力な」権利者の中には、議員に働きかけ て地区計画を制定させようとするかもしれません。 確かに、議員から行政、議会を動かすことで地区計画をかけることは出来る かもしれません。しかし、それでは特定の権利者のエゴだけで街を規定して しまうことになってしまいます。 また、マンション建設反対運動に対し、業者は「補償金」という形で解決を 図っています。奇麗事では済まされない現実がそこにはあるのです。 建築協定や地区計画というものはあくまでも制度であって、それを実効性の あるものとするかどうかは、その地域の権利者全員の意識の問題です。 壊すことは一人でも出来ますが、守ることは全員の協力が必要なのですから。 ================================== [ 5] 個の権利と街の価値 ================================== 住宅や住まいに対する考え方は、確実に変化し始めています。 都心部への過度な人口集中が収まり、土地神話も消えた今、余裕を持って自 分の住まいを考えられるようになってきたと言えましょう。 それぞれの「個」としての土地や住まいが、「全」としていかに心地よい空 間のなかに位置しているのか?。逆に言えば、心地よく住みたい「街」の視 点から土地や住まいを探していく...。 個からの評価ではなく、全からの評価が土地や住まいの評価を決めていく流 れは今後、更に強まっていくことでしょう。 そう考えれば、街の価値を上げることは、ひいては個々の不動産の価値をあ げることにもなるわけです。 環境問題や高齢化・小子化。様々な観点から、街を見つけ直す時期に来てい るのではないでしょうか? アークメディア通信>>>>>>>    アークメディア掲載コラム「原拓也の特捜!商業開発(月刊)」では、    中心市街地活性化法とTMOをとりあげ、商店街の視点からの街づくりを    考察しています。      http://www.arcmedia.co.jp/news/takuya/takua08.htm    を是非、ご覧ください。 ================================================================ ○電子メールマガジン「ArcMediaマガジン」第14号 1998/07/14   発行元:株式会社アークメディア       http://www.arcmedia.co.jp/   (執筆:企画開発部 山田 雄一 mailto:youichi@arcmedia.co.jp)            【ArcMediaマガジンは、転載大歓迎です。】    メールマガジンの登録・削除は      「まぐまぐ」  http://mag2.tegami.com/mag2/     私の個人ページ  http://users.arcmedia.co.jp/youichi/    で受け付けております。 ==================================== ArcMedia Magazine =========