=== ArcMedia Magazine ======================================    建築情報ネットワーク「ArcMediaマガジン」          第2号    1998/02/27発行  (隔週発行) ============================================================ ■ArcMediaマガジンは、「まぐまぐ」を利用して、建築に関連した  様々な情報をお届けする電子メールマガジンです。 皆さん、こんにちは。 前回の創刊号はいかがでしたでしょうか?。 さて、今回は、「建築家と設計事務所」というテーマで、「建築家」 をもう少し、分解してみようと思います。 ================================ [ 1] 建築家は脱サラの元祖? ================================ 近年、「終身雇用の崩壊」とか「先行きの不透明感」といった状況から か、脱サラして自分で事業を起こそうという動きが盛んですね。 でも、実際に独立をしてやっていこうと踏み切れる人は、まだまだ、少 数なのが現状でしょう。 ところが、建築設計業界においては、独立はそう珍しいものではなく、 多くの人々が独立し、自分の事務所を構えていきます。「脱サラ」なん ていうのは、昔からそう珍しいものではなかったのです。 このように独立していくのが、「当たり前」的なところがあるので、ほ とんどの設計事務所が、本人のみかスタッフがいても数人という小規模 なものです。 建築家という職業がら「手に職」があるので、一般のサラリーマンより も独立しやすいというのは解りますが、逆に、「寄らば大樹の影」のサ ラリーマンとしての生活を放棄する人が多いのはなぜでしょう。 ================================ [ 2] 独立の理由 ================================ 実際の独立にあたっての理由は、それそれでは有りますが、3つほど、 挙げてみましょう。 1.芸術家として活動したい 建築家は「住まいづくりの弁護士である」というお話を前回しましたが、 同時に「芸術家」としての側面も有ります。もともと、「自分のデザイ ンした空間を作りたい」という欲求から建築家を志した人が多いですか ら、「芸術家」としての側面を重視している人が多いのは当たり前です。 実際、大学の「建築学科」の多くは工学部に属していますが、芸術系学 科の所属となっているものも少なからず存在しています。 こうした「芸術家」にとって、個人としての自己アピールが出来ない会 社組織は窮屈なものであり、「自己」を前面に出した個人事務所をつく る事を志向するようになります。 2.組織の論理と個人の倫理観 サラリーマンならだれしもが感じた事があるかもしれませんが、組織と しての論理と個人の倫理観とは必ずしも一致するものではありません。 特に、建築家という職業は、建主に対し「住まいづくりの弁護士」とし て活動をするわけですが、その中では、効率化、合理化をもとめる組織 の論理とは相反する対応が必要となる事が出てきます。 例えば、効率化や合理化を求めるなら、紋切り型の設計プランを提出し たり、特定の建材メーカーの製品を使った方が良いわけですが、建主の 意向やライフスタイルなどを踏まえれば、時間をかけたコンサルテー ションが必要となるわけです。 個人事務所であっても、当然、両者のバランスは必要なわけですが、自 分で判断するわけですから、自分の良心を裏切らない活動は出来るよう になります。 3.自己で完結した業務が可能である 通常の会社組織では、顧客の意向をくみとる「営業職」や、市場動向を 把握分析する「企画職」、技術開発・検討を行う「技術職」といった各 専門分野の人々で構成されており、職能別の分業体制が組まれています。 しかし、建築家の業務の場合、小規模な建物であれば、建主との打ち合 わせも、建物のプランニングも、技術検討も「建築家」本人が行います。 こうした業務の中で、自然と組織に依存するのではなく、自分自身のプ ロとしての能力が磨かれていきますので、独立が容易なわけです。 ================================ [ 3] 組織規模は気にしない ================================ このようにして独立した建築家は「設計事務所」を開設します。 税法上の問題や社会的信頼性から、これらの設計事務所の多くは法人化 しますが、多くの個人設計事務所は建築家本人か、その家族のみといっ たスタッフ構成です。スタッフが10人を超えるような所は、「大事務所」 といっても良いでしょう。普通の法人であれば、スタッフが数人しかい なければ「零細」となりますが、設計事務所の場合にはそれが当たり前 と思って構いません。もともと前述のような理由で独立しているので、 組織規模を大きくする事に無関心な建築家も多いのです。 こうした設計事務所の事を、大規模な会社組織の設計事務所と区別して、 「個人設計事務所」と呼びますが、事務所というよりは、所長である 「建築家」本人のアトリエといった方が表現的にはあっているかもしれ ません。 個人設計事務所という組織は、多くの場合、所長建築家そのものである と考えて下さい。 よく我々は「ソニー製だから」のように商品ではなく組織のブランド力 を判断基準としています。しかし、すまいづくりのパートナーとなる建 築家を探すときには、背景にある事務所規模や実績より、建築家本人を 見極める事が重要なのです。 こうした、「個人を見極めなくてはならない」という事が、建主側の負 担となっているともいえますが、「一生に一度」の買い物なのですから、 少々の苦労とともに、選択眼を磨くのも良いのではないでしょうか? ============================================================ ○電子メールマガジン「ArcMediaマガジン」第2号 1998/02/27   発行元:株式会社アークメディア       http://www.arcmedia.co.jp/   (執筆:企画開発部 山田 雄一 youichi@arcmedia.co.jp)            【ArcMediaマガジンは、転載大歓迎です。】 ==================================== ArcMedia Magazine =====