=== ArcMedia Magazine ==========================================    建築情報ネットワーク「ArcMediaマガジン」          第4号    1998/03/27発行  (隔週発行) ================================================================ ■ArcMediaマガジンは、「まぐまぐ」を利用して、建築に関連した  様々な情報をお届けする電子メールマガジンです。 皆さん、こんにちは。ご購読ありがとうございます。 先日,TVを見ていたら「自慢の我が家」というようなテーマでいくつか の住宅が取り上げられていました。こうした企画自体は特に目新しい物 ではありませんが,その中で印象的だったのは住宅内が全身ジャングル ジムのような住宅が紹介されていた事です。 その形態自体,かなり奇抜だったのですが,私が気になったのは他の住 宅は居住者(家主)自らが嬉しそうに,また,ちょっと恥ずかしそうに レポーターと対話しながら紹介しているのに対し,この住宅だけ「建築 家」が出てきて前面に立ち,居住者はカメラに背を向けていたことです。 珍獣を見つけたかのような現場レポーター。嬉々としてコンセプトを紹 介する建築家。カメラのすぐそばに居るのに振返ろうともしない居住者。 言葉を失っている本局のキャスター(生放送でした)。これら4者のギャッ プを見ていて,「居住者は本当にこの家に満足しているのだろうか?」 という心配を感じました。 奇抜な住宅というのは,あっても別に構わないと思っていますが,あく までも居住者が全面的にそうした「住まい方」を求めた,もしくは必要 とした場合だと思います。居住者が満足しているのならば,周りがとや かく言う筋合いのものではありませんが,番組を見る限り,建築家の暴 走といった印象が非常に強いものでした。 あの番組をみた多くの人は「建築家に頼むと恐ろしい事になる」と思っ てしまったのではないでしょうか?。 ところで,住宅に限らず建築物での暴走は,「ばかけんちく探偵団」 (http://www.st.rim.or.jp/~flui/bk/baka_home.html)で取り上げられ ています。結構有名なサイトなのでご存知の方も多いかと思いますが, このサイトのトップページ下部に「ばかけんちく」を生み出すタイプが 上げられています。 結局のところ,建築家と付き合うには必要以上に「先生」としてその権 威にひれ伏すのではなく,対等に腹を割って対話をする事が必要という ことです。特に住宅の場合,使用するのは建主たる本人なのですから, コミュニケーションはしっかりと取る必要があります。それが出来ない のならば,ハウスメーカーなどによる家づくりを選択した方が,無難な のかもしれません。 ちょっと,話が脇道にそれました。 今回は「工務店」を取り上げてみようかと思います。 ================================ [ 1] 実は一番身近な存在 ================================ いままで,建築家,ハウスメーカーと取り上げてきましたが実のところ, 家づくりに関して一番身近な存在は「工務店」だといってもよいでしょう。 町中を注意深く歩いていれば,結構「○○工務店」という看板をみかけ ることが出来ますし,小中学校のお子さんをお持ちであれば,「工務店」 の子供が同級にいたりすることもあるかもしれません。 NTTのタウンページによれば,私の住んでいる市(埼玉県浦和市)では, 462件の工務店(より大規模な建設会社も含む)が存在しています。同 様の検索で市内のコンビニエンスストアは135件にすぎませんから,そ の数の多さを実感できます。(ちなみに建築設計事務所は195件でした) でも,そんなに数が多いのにも関わらず,多くの人にとってなじみが, 薄いのが現実でしょう。「家を建てる」にしてもまず第1歩は「住宅展示 場」に出向くのが一般的で,工務店のドアをたたく人はそうはいません。 (設計事務所のドアをたたく人はもっと少ないと思いますが) 建築家とは違った意味で,工務店もちょっと縁遠い存在となっているの はどういう理由があるのでしょうか。 ================================ [ 2] 営業力の低さをもたらしたもの ================================ 一番,大きな要因は「営業力」の低さにあります。 通常,工務店の業務は営業と施行とから成り立つものですが,多くの工 務店は決定的に営業力が不足しています。簡単に言えばハウスメーカー の「住宅展示場」と「TV-CM」に代表される物量作戦に,対抗する事が出 来ないわけです。(営業力の不足という点では建築家も同様ですが) 営業力が不足している原因は,設計事務所と同様に規模の小さな工務店 が多いため,専任の営業マンをおく事はもとより,宣伝広告費に費用を 裂く事が難しいという台所事情が大きく関係していますが,それだけで もなさそうです。 1.職人肌の強いケース 工務店の主人が経営者というよりも,職人肌の強い人の場合,ちょうど 建築家と同じように「腕があれば仕事は向こうからやってくる」という ような意識が強く,派手な営業活動をよしとしないケースがあります。 現在のようにマスメディアなどが発達していなかった時代には,口コミ が最大のメディアであり,また,町のコミュニティにおいてもそうした 情報交流が盛んに行われていました。そういう状況では,いい仕事をし ている「地元の工務店」という評判は,自然と広く浸透しており,特に 宣伝活動をしなくても仕事を獲得できていたわけです。 時代が変わったからといって,従来からのやり方をそう簡単に変えられ るハズも無く,頑固なまま現在に至っているのです 2.市場拡大に慣らされてしまったケース 施行の世界というには,上は超高層ビルから下は物置まで非常に幅の広 いものです。建築分野だけでなく土木分野だって存在します。 この建設業は昔から経済波及効果がきわめて高い業種として知られ,景 気のてこ入れなどには必ず「公共投資」という形で資金が投入されます。 (米国の大恐慌を立ち直したニューディール政策はあまりに有名) 例えば,バブル崩壊によって建設市場の落ち込みが見受けられた'93, '94年には住宅金融公庫が「ゆとり返済」において,当初5年間を「75 年返済」で計算する事により,見かけ上の返済金額を引き下げることで 落ち込みかけた住宅需要を呼び戻しています。 そもそも,人口の増加,核家族化の進行,都市部への人口集中,都市開 発の郊外化など住宅の需要は高まるのが当たり前の状況だったのです。 しかも,そこには政府からのてこ入れもあるわけでまさに「鬼に金棒」 です。 こうした市場拡大の中では,積極的な営業活動を行わなくても仕事は舞 い込んできていたのです。 3.法人需要に慣らされてしまったケース 2と関係する話ですが,市場拡大していく中では,宅地開発が多く行わ れます。 その規模は住都公団の開発のように非常に大規模なものから,いわゆる ミニ開発と呼ばれるようなものまで様々ですが,その多くは「建て売り」 であることから,建主は開発者である公団や不動産ディベロッパーとな ります。実際に施行する工務店にとっては,施行した住宅を実際に購入 する人々ではなく,開発者であるディベロッパーが施主となるわけです。 当然,工務店にとって,こうした施行を受注できれば一軒一軒,受注す るよりも効率が良いわけで,自然と営業の矛先はこうしたディベロッパー に向けられるようになります。 個人ではなく法人に対しての営業活動が主体となってしまうのは,なに も工務店に限った話ではないのですが,はじめから個人相手の活動を主 体としてきたハウスメーカーとは対照的です。 4.下請け主体となってしまったケース これは営業力低下の原因なのか結果なのかはっきりとはしませんが,小 規模な施行会社ほど下請け主体となっていることも見逃せません。 建設省の調査によれば,資本金2,000万円未満の施工会社は仕事の50%以 上を「下請け工事」に頼っており,しかも2次,3次下請けも多く行われ ています。元々,建設業界ではこうした縦の繋がりが強いのですが,こ れに慣らされてしまった所も多くあるのでしょう。 3と関係する話ですが,住宅を作っていたとしても,その居住者となる 人ではなく「元請けからいかに仕事をまわしてもらえるか」ということ が大事であったといえるでしょう。 ================================ [ 3] 苦しくなった工務店 ================================ 今や,日本経済は右を向いても左を向いても「苦しい」状況にあります が,工務店も同様です。 ハウスメーカーに猛攻され,法人需要が落ち込み,個人顧客向けの営業 経験も体制も無く,元請け会社からはコスト削減が求めれらる...。 苦しくなって当然といえば当然ではありますが....。 そこで,工務店が生き延びるために取る方法は以下の3つだと言われて います。   1.ハウスメーカーの下請けとなる   2.フランチャイズに加盟する   3.独自の商品を作り独自性と技術力で勝負する 現在,多くの工務店が1の選択肢を選んでいるとも言われますが,工事 件数は確保できてもコスト的には厳しいのが実状です。建設省の調査で も下請け主体の施工会社では50%以上の工事で原価割れになっています。 (余談ですが,ハウスメーカーは通常,自前で工事せず,下請けの施工 会社に工事させます。場合によってはその下請けが2次,3次にまで及ぶ 場合もあります。一応,ハウスメーカーから現場監督は配属されますが 複数の物件を担当しており,また,経験の浅い若手が多いため監理業務 が十分に出来ているとは言えません。下請けにしてもコスト制約が厳し い中ですし,直接,施主と契約しているわけでも無いのでどうしても, 責任感が薄弱になりがちです。その結果は...) フランチャイズに加盟すると工務店は「ブランド力」と「営業ノウハウ」 といったものを入手できます。パンフレットにしてもフランチャイズの 見栄えのするものを配布するような事が可能となり,営業力が不足して いる工務店にとっては大きな武器となるでしょう。また,下請けになる わけではないので,ある程度は自主性を持った活動が可能です。 しかし,そもそもフランチャイズは「魅力ある商品」を「いかに効率よ く販売」するかという点がポイントです。そのためには「ブランド力」 だけに留まらず「資金計画の立て方」や「技術講習」「営業ノウハウ」 といった総合的な支援態勢が求められます。 建設省の調査では小規模施工会社ではその6割以上が経営計画を立ててお らず,事業の計画性といったものが存在していない事が判明しています。 フランチャイズ加盟が単にブランド力を高めるだけのものであるなら, 先行きはあまり明るくないと言えるのでは無いでしょうか。 最後の,独自性を高めるというのは「言うは易し...」の典型例でしょう。 商品企画を行い,それを販売し,製造していくには相当の企画力,技術 力はもちろん,裏付けとなるしっかりとした経営計画も必要です。 どんぶり勘定的な体質が強い工務店業界で,これらを実現していくには, 経営コンサルタントなどの外部からの助言が必要なのかもしれません。 ================================ [ 4] 建主としては ================================ 建主としては,実際に住まいを建ててもらう事になる「工務店」のおか れているこうした状況を把握しておく事が重要でしょう。 施行してもらったものの,その後すぐに潰れてしまっては,その後のケ アは期待できません。悪質な業者であれば「計画倒産」する事だってあ ります。 こうして書いてくると,工務店に依頼するのは非常にリスクが高い様に 思われるかもしれません。が,工務店には工務店ならでは「現場の知恵」 といったものが備わっており,それらをうまく引き出せると建築家に依 頼するのとはまた異なった利点が生まれてくるのも確かなのです。 長文となりましたので,この辺については次回以降に取り上げたいと思 います。 アークメディア通信>>>>>>>>   アークメディアでは4月より、「住まいの情報」を正式公開します。   それに先立ち、現在、利用会員の募集を開始しております。   是非、ご来訪の上、利用会員登録(無料)やご意見、ご感想をお寄   せ下さい。          http://www.arcmedia.co.jp/ ================================================================ ○電子メールマガジン「ArcMediaマガジン」第3号 1998/03/13   発行元:株式会社アークメディア       http://www.arcmedia.co.jp/   (執筆:企画開発部 山田 雄一 mailto:youichi@arcmedia.co.jp)            【ArcMediaマガジンは、転載大歓迎です。】 ==================================== ArcMedia Magazine =========