=== ArcMedia Magazine ==========================================    建築情報ネットワーク「ArcMediaマガジン」     第5号(リニューアル記念特別号)      1998/04/03発行 ================================================================ ■ArcMediaマガジンは、「まぐまぐ」を利用して、建築に関連した  様々な情報をお届けする電子メールマガジンです。 さて、今回はアークメディアのリニューアル特別号としまして、定期借 地権を利用した全く新しい仕組みである「つくば方式マンション」をご 紹介します。 つくば方式マンションは,定期借地権の制度を利用して,定借の問題点 だけでなくマンションそのものの仕組みの欠点を改善し,地主も入居者 も皆「満足」というウルトラCみたいな仕組みです。 なお,通常の定期借地権については,アークメディアの「住まいの情報 いろいろ」の雑学(http://www.arcmedia.co.jp/)をご参照ください。 ================================ [ 1] 地主にとっての通常の「定借マンション」の問題点 ================================ 定期借地権を利用したマンションというのは優れた点をいくつも持って いますが,地主にとって,通常の定期借地権マンションを事業化した場 合,30年の建物譲渡特約付き定借では30年後の買い取り資金を準備しな ければなりません。 また,50年の一般定期借地権では最終的に更地にしてしまう関係で,期 間末期には入居者の修繕意欲などが減退し,スラム化する事が危惧され ています。また,入居者数が多数に及ぶため,本当に素直に返してもら えるのか?という心配も拭いきれません。しかも,更地で返されること はスクラップ&ビルドを助長し、社会的に不経済であるばかりか、その 後の新たな土地活用も模索しなければなりません。 ================================ [ 2] 入居者にとっての通常の「定借マンション」の問題点 ================================ 入居者にとって,定期借地権マンションを購入した場合,やはり気にな るのは30年,50年という借地期間でしょう。 「分譲よりも安価に購入できるのは良いけれど...」とは誰しもが考える 問題です。実は,この問題は定借でなくてもマンションであれば全てが 抱えている問題なのですが(後述),定借の場合は期限が切られている分, 特にクローズアップされることになります。 30年の「建物譲渡特約付き」の場合であれば,建物譲渡後は賃貸マンショ ンとなり,借家人として居住できますが果たして30年後に家賃負担をし ていくことができるのか?という不安があります。 また,一般定期借地権における期間末期のスラム化は入居者にとっても 大きな問題です。自分自身が高齢化していく中でマンションがスラム化 していくなど想像もしたくないでしょう。 ================================ [ 3] 一般の分譲マンションの抱える問題点 ================================ 定借マンションという事ではなく,一般の分譲マンションも仕組み上, 問題を抱えています。 一番大きな問題は,「長く居住する事が困難なのにも関わらず,建て替 えのスキームが出来ていない」という事です。 マンションに限らず日本の住宅の寿命は,そう長いものではありません。 人生半ばで新築しても,定年をむかえる頃には建て替えや改築が必要と なるのが普通です。特に,現在のように,設備系がどんどん進歩してい る中ではこうした傾向に拍車がかかっています。(後述) 一戸建てであれば,こうした建て替えは資金だけの問題ですみますが, マンションでは資金だけでなく,居住者の同意という問題が大きくのし かかってきます。 そもそも,日本では住宅が社会的なストックになり得ていないという問 題があります。木造の一戸建てはともかく,鉄筋コンクリート造の強固 な構造体を持ったマンションですら,数十年でスクラップ&ビルドする しかないというのは,非常に無駄な話です。この辺の「建物の使い捨て 文化」についてはいろいろな分析や意見がありますが,ともかく,多大 なコストを投入して造る以上,良質な社会的ストックとしていくという 姿勢が今後は必要とされましょう。 ================================ [ 4] つくば方式のアイディア1 〜譲渡特約と家賃相殺契約 ================================ つくば方式では,30年の譲渡特約付き定期借地権をベースとしています。 よって本来であれば,30年経つと地主は建物を時価で買い取らなければ なりませんし,入居者は(住み続けるのであれば)その後賃貸マンショ ンとしての家賃を支払っていかなければなりません。 これは,双方にとって大きな負担となります。 そこで,つくば方式では,建物を地主に譲渡する際,その売ったお金を その後の家賃として相殺する「家賃相殺契約」を開発しました。 実際に現金が受け渡される訳ではないので,地主にとっては買い取り資 金を用意する必要が無く,入居者にとってはその後も安い家賃負担で住 み続けることが出来るので,双方にとって負担が少なく安心の方式です。 また、30年で譲渡されますので,その残存価値を高めておくことが入居 者全員の利益となります。そのため,スラム化なども起きにくくなりま す。 ================================ [ 5] つくば方式のアイディア2 〜スケルトン技術の開発 ================================ 家賃相殺契約により,金銭的,契約的には長く住むことが可能となりま すが,建物自体の「寿命」については問題が残ったままです。 実のところ,今の建設技術をもってすれば,100年持つような建物を建 設することが可能なのです。が、快適に住み続けるためには建物が頑丈 で耐久性があるというだけでは不十分で、内部的な設備面が快適で有り つづける必要があります ○老朽化 陳腐化していくする設備 まず、老朽化が顕著なのは、給湯器や各種パイプといったものです。こ れらは15〜30年ほどで次々と交換時期に入ります。 しかし、あらかじめ交換が必要となることが解っているものは、交換可 能なように設計することで対応することが出来るので、そう問題とはな りません。(古いマンションや悪質なマンションでは交換できないもの もありますが...) が、問題なのは、どんどん便利に,かつ,種類が増加している住宅設備 です。 例えば,一昔前まではTVはリビングに置く物と相場が決まっていました が,現在ではどの部屋にだってTVが置かれてもおかしくありません。そ のために各部屋にはTVアンテナ端子が必要となりました。しかし,これ とて将来的に光ファイバー化されたり,無線化されるようになってしま うかもしれないのです。通常のエアコンで充分と思っていても,床暖房, もしくはもっと進化した空調が必要になることだって考えられます。 要は,設備面はどんなに余裕を持っていたとしても,状況の変化が著し く,生活様式も変わるためどうしても,寿命は短くなってしまうのです。 ○建物の寿命とは? 建物の寿命の考え方には,「構造的寿命」「機能的寿命」「経済的寿命」 の3つがあるとされています。既存の建物の多くは「構造的寿命」では なく「機能的寿命」「経済的寿命」による寿命によってスクラップ&ビ ルドされているのが現状です。(経済的寿命とは、簡単に言えば「立て 直した方が安い」ということです) ○スケルトン技術の登場 これでは,あまりに無駄が大きすぎるので考え出されたのが「スケルト ン技術」です。 これは,建物を構造体の部分(スケルトン)と居住者の専用部分(イン フィル)とに分離して考えるものです。 既存のマンションでも書類上は「共有部分」と「専有部分」に分かれて はいますが,自分の家の器具であるはずのコンセントや電灯の取付金具 が共有部分たるコンクリートの壁に埋め込まれていたりします。共有で ある給排水パイプなどが専有部分たる室内を通過している事もあります。 これでは,将来的にこれらの位置を移動したり形状を変更させようとし ても,対応が困難ですし,管理区分もはっきりしません。 これに対し,スケルトン方式では共有な物は廊下やバルコニーなど共有 の部分を通したり,コンセントや取付金具など専有物は構造部分(スケ ルトン)に埋め込まないようになっています。 そのため,各住戸内の間取りや設備をいつでも容易に,かつ,大胆に変 更させることが可能であり,「機能的寿命」に対応させることが可能で す。しかも,大規模なリニューアルを行っても,インフィル部分の変更 だけなので安価であり,「経済的寿命」を延ばす事にもつながります。 つくば方式では,この「スケルトン方式」を採用することで,建物その ものの寿命を延ばし,かつ,個別住戸(インフィル)の建て替えにも対 応できるようになっているのです。 ================================ [ 6] 安価で長期に安心して高品質な住宅に住める ================================ こうして「建物譲渡特約付き定期借地権」と「スケルトン方式」を組み 合わせることによって誕生したのが「つくば方式マンション」なのです。 つくば方式という名前が付いているのは,この方式の開発の中心となっ たのが,茨城県つくば市の「建築研究所」であったことと、この方式の 第1号及び2号物件がつくば市に出来たという理由からです。 この方式を利用することで,分譲マンションに比べ「安価に」,一般の 定借マンションよりも「長期に」,スラム化なども心配も少なく老後の 費用負担も少ないので「安心して」,かつ,自由に間取りを設定でき, 建物の構造も強固な「高品質な」住宅に住めるようになるのです。 ================================ [ 7] 考えなくてはならないこと ================================ まるで夢のような方式ですが,問題点が無いわけではありません。 まず,最大の問題は「仕組みが複雑」という事です。一般定期借地権と 組み合わせた建物譲渡特約付き定期借地権とかスケルトン方式,家賃相 殺...など様々な仕組みが組み合わされており,それぞれに相応の知識 が必要とされます。不動産を購入する時は,ただでさえいろいろな知識 が必要とされるのに,それに加えて「つくば方式」を理解することは, 一般の人々にとってかなりの負担でしょう。 また、ベースとなる定借制度も含め新しい仕組みなため,「実績」といっ たものが存在しません。誰もまだ,30年後の定借物件の状況を見たもの はいないのですから,今後,生じてくる状況も「予想」にすぎないので す。当然,住まい方というものも,居住者自らが作り上げて行く必要が あります。 こうした状況に対応していくには,居住者自らが「つくば方式」を勉強 し,自分たちの居住スタイルとして納得し,居住していくことが必要で しょう。「自己責任」という言葉がよく言われるようになりましたが, つくば方式マンションでもこの自己責任が重要なファクターとなりましょ う。 ================================ [ 8] 具体例 ================================ つくば方式マンションは、茨城県つくば市の2棟を皮切りに現在、各地 で具体化しつつあります。 そのうちの一つ、神奈川県で現在計画中の物件についてはアークメディ ア「住まいの情報いろいろ」の中の雑学コーナーで紹介しております。 (http://www.arcmedia.co.jp/index.htm) また、この夏にかけて、建築研究所が中心となってつくば方式の普及を 目的とした相談センターの開設も予定されています。 (センターの詳細は、また、追ってご紹介いたします) ================================ [ 9] つくば方式マンションが都市を救う? ================================ 現在は,戦後の様々な仕組みや枠組みが大きく変化しつつある時代です。 住宅についても,従来の「分譲マンション」や「郊外一戸建て」といっ た仕組みが高齢化,人口の減少,土地神話の崩壊などをキーとしてその 存在価値を大きく変えつつあります。 このままでは,郊外のミニ開発や立地の悪いマンションなどでスラム化 が生じてしまうという危惧すら生まれつつあるのです。 つくば方式は居住者や地主の双方に利点をもたらしながら「都市の良好 なストック」を形成していくことができるという特徴を有しています。 21世紀初頭から始まる人口減少の時代に入ってからでは,ストックの形 成は非常に難しくなると予想されます。次世紀の子孫達に良質な都市空 間を残す手段としても,この「つくば方式マンション」は期待されてい るのです。 アークメディア通信>>>>>>>>   冒頭でもお知らせしましたが、アークメディアでは4月1日より、正   式に「住まいの情報」をスタートさせるとともに、ホームページの   大規模なリニューアルを実施しました。   是非、ご来訪の上、利用会員登録(無料)やご意見、ご感想をお寄   せ下さい。          http://www.arcmedia.co.jp/ ================================================================ ○電子メールマガジン「ArcMediaマガジン」第5号 1998/04/03   発行元:株式会社アークメディア       http://www.arcmedia.co.jp/   (執筆:企画開発部 山田 雄一 mailto:youichi@arcmedia.co.jp)            【ArcMediaマガジンは、転載大歓迎です。】 ==================================== ArcMedia Magazine =========