=== ArcMedia Magazine ==========================================    建築情報ネットワーク「ArcMediaマガジン」           第7号            1998/04/17発行 ================================================================ 今回は、一応、第7号としていますが、「号外」と思ってください。 既に、ご存知の方も多いかも知れませんが、「定期借家法」の導入が与 党合意されました。早ければ、今年度中の施行もあるようです。 定期借地権の導入当初から「次は定期借家権」という話は出ていたので すが、借地以上に多くの人々に影響が出るため、延び延びになっていま した。 ================================ [ 1] 現在の借家法 ================================ 現在、アパートや賃貸マンションなどを借りると、通常は「契約期間2年」 となっています。 しかし、現在の借家法では「借りている人が住みつづけたい」と思う限 り、契約を更新しつづけていくことが出来ます。大家がその建物を返し てもらいたいと思っても、契約の更新を拒むことは出来ないのです。 将来的な不動産活用の選択肢を確保しておきたい地主や大家にとって、 こうした「借り手側の権利保護」が強い中では、「見た目は派手だが、 住み続けるといろいろと不満を感じる」というような住宅を作っておい て、「住み続けられない」ようにすることが自衛策の一つでした。 ================================ [ 2] 分譲マンションと賃貸マンション ================================ これを如実に比較できるのが「分譲マンション」と「賃貸マンション」 との違いです。分譲を目的としたマンションでは間取りや収納スペース をゆったりと取り、ドアやカーペットなども耐久性の高いしっかりとし たものを使用しています。それに対し、賃貸マンションでは部屋を細切 れにし、カーペットなども耐久性などを考慮してはいません。実際、畳 なども「賃貸物件用」などという最廉価グレードがあるくらいです。 その他、遮音性能にしても、給湯機のグレードにしてもあらゆるものが、 分譲用と賃貸用では異なった基準で設計され、施行されています。 見た目には同じように見えても、住んでみれば「質感」の差を実感する 事になるでしょう。 ================================ [ 3] 良質な「賃貸物件」が生まれるか? ================================ 現在の通常の賃貸物件では圧倒的にワンルームなど単身者向けが多く、 「ファミリー向け」の物件が少ないという特徴が有ります。 単身者であれば、結婚などで転居する可能性が高いですが、ファミリー 向けであれば長期に及ぶ賃貸を覚悟しなければならず、それが、供給を 消極的にしているからだといわれています。 こうした家主の心理状況を表現しているものとして「法人向け(いわゆ る借上げ社宅)」物件が挙げられます。というのも、法人向け物件では、 ファミリー向け物件の比率が圧倒的に多いからです。 「法人向けであれば、居座られる可能性が少ない」という事が家主を安 心させているからだと考えることが出来るでしょう。 しかし、「定期」で家主側が安心して貸せる制度が出来ることで、法人・ 個人、単身・世帯に関係なく市場が必要としている物件を柔軟に提供で きるようになります。需要と供給の関係が正常化するわけです。 建物の質にしても、追い出すように仕向ける必要が無くなった分、費用 対効果を考えながら、建物を設計・施行できるようになります。 これは、従来の「安かろう悪かろう」的な賃貸物件の概念を変えていく 事になると期待されています。 また、定期借家なら、物件を売却するのも容易になる事も家主にとって、 借家に乗り出すきっかけとなるでしょう。従来は、借家人付きでは、買 い手が自己利用する際の障害となるため、評価が大きく下がってしまっ たのですが、期限付きの賃借であれば、大きなマイナス評価にはならな くなってきます。むしろ、優良な借り手がついていれば、そこから利回 りが期待できるため、「投資物件」として新たな価値を持ってくるかも しれません。 ================================ [ 4] 家賃は安くなるのか? ================================ 家主にとって、現在のように、「いつ返してもらえるかわからない」借 家では、下手に安い価格で貸してしまうと将来的に自分の首を絞めてし まう恐れがあります。というのも、契約を終了させるのに多額の立退き 料が必要となるケースが多いからです。 となると、自ずと高めの家賃設定となっていくこととなります。 しかし、期限をしっかりと切ることが出来れば、こうした「立退き料」 に備える必要も無く、相対的に家賃を引き下げることも可能となって きます。実際、現在でもトラブルの心配の少ない法人向けでは相対的 に家賃が低くなっているのです。 ================================ [ 5] 借家は増えるか? ================================ 1941年には8割を超えていた借家比率が、現在では4割以下にまで減少し ています。 戦後の土地神話の中では土地の所有をすることによる「キャピタルゲイ ン」が期待できたこと、終身雇用などで収入が安定し、かつ、増加して いた事、そして、所有に比べて割高であった賃貸料といった要素が、持 ち家志向を強めていたと考えられます。 しかし、現在のように、土地神話が崩壊し、終身雇用も崩壊していく中 で、定期借家法によって家賃の引き下げが起きてくると長期ローンより、 気楽な借家暮らしを選択する人々が増加してくるものと思われます。 また、家主にとっても、「高額な立退き料」や「居座り」を心配する必 要が無く、計画的に、かつ、効率的に運用することが可能な「借家」は、 優良投資物件といえます。しかも、いざというときの「売却」も可能と なれば、従来、借家経営に難色をしめしていた人にとっても魅力的に映 るのではないでしょうか。 需要と供給の双方にとって条件が整ってくることになるわけで、借家数 は増加していくものと思われます。 ================================ [ 6] 増えたらどうなる ================================ 現在の住宅市場は「借りるよりも買った方がメリットが大きい」という 前提で構成されていると考えられます。 しかし、借家物件が増加し、「借家で十分」という意識を持つ人が多く なってくると、現在の住宅市場が大きく変化していくことが予想されま す。要は「借りるか買うかは状況しだい、人それぞれ」となるわけです。 この影響は「持ち家志向」に支えられてきた分譲市場にも及んでいきま す。現在でも、中古マンションはだぶついてしまっていますが、それに 追い討ちをかけるような方向に市場が動く可能性が有るわけです。 現在、マンションの購入者は1次取得であっても、先の事を考え「永住 型」を志向しているといわれます。しかし、そうした質の高いマンショ ンは価格も上昇するため、実需までは結びついていないのも現実です。 「永住型」の志向の背景には買い替えによるステップアップが期待でき なくなったという事情があるわけですが、良質な借家物件がそろってく れば、借家の住み替えによってライフスタイルにあった居住環境を手に 入れられるようになるわけです。日本では、住まいがライフスタイルに 合わなくなると「建て直し」てしまいますが、欧米では「引っ越す」と いうのが当然といわれています。それだけ「利用する」という割り切り がはっきりしているといえますが、日本でもこうしたトレンドになって いくのではないでしょうか? ================================ [ 7] 住宅市場は激変するのか? ================================ 所有から利用へ意識が変化していく中で、住宅市場は変化していくこと は間違いありません。 しかし、それが急速に訪れるのかという点に関しては「?」です。 その理由は、定期借地権の時もそうでしたが、地主や家主側に「借す」 ということに強いアレルギーがあることです。理屈ではなく「やな物は ヤダ」という域に達してしまっている人も多く、実際の供給に結びつく には相応の時間が必要となるでしょう。 また、現在起きている住宅中古市場の混乱もあります。 デフレ状態の物件やローン破綻など、現在、住宅中古市場は大混乱状態 にあります。この状態では、新しい仕組みが普及するのも難しいでしょう。 入居者側にしても、将来的にも借家市場が健全に維持されていくという 展望がもてなければ、老後の事などを考えて「やっぱり所有」というよ うな心理状態にもなります。 ================================ [ 8] 入居者としては? ================================ 既に、住宅戸数ストックは世帯数を上回っていますし、2005年くらいに は総人口が減少していきます。 定期借地権に続いて、定期借家権が出てきたことや、土地神話の崩壊な ど住宅を取り巻く環境は大きく変化してきています。今は、そうした転 換期の真っ只中にいるのです。 土地にしても、戸建てにしても、マンションにしても、住まいを考える 上で「自分のビジョン」といったものを明確に持つ必要があるでしょう。 でなければ、今後、起きてくる様々な環境変化に耐えていくことは出来 ないと考えるべきではないでしょうか? 現在、「金融ビッグバン」と騒がれていますが、住宅に関しても同様の 状況になりつつあるようです。 アークメディア通信>>>>>>>>   新しいホームページはご覧いただけましたでしょうか?   是非、ご来訪の上、利用会員登録(無料)やご意見、ご感想をお寄   せ下さい。          http://www.arcmedia.co.jp/ ================================================================ ○電子メールマガジン「ArcMediaマガジン」第6号 1998/04/17   発行元:株式会社アークメディア       http://www.arcmedia.co.jp/   (執筆:企画開発部 山田 雄一 mailto:youichi@arcmedia.co.jp)            【ArcMediaマガジンは、転載大歓迎です。】 ==================================== ArcMedia Magazine =========