地方ローカル空港の活性化策

 
現在、全国で地方空港が建設されている。
その多くが採算性に疑問がもたれていたり、実際に開業した空港でも路線増大が図れなかったり、逆に、路線が減少している空港も出ている。
鉄道は、その建設費さえ圧縮できれば、運用はなんとかなる事が多いが、空路の場合には空港があったとしても、飛行機は飛ばせば飛ばすだけリニアに費用が発生するから、その採算は稼働率に直結している。しかもその金額が多大である。
航空会社にすれば、飛行機を抱えているだけでも大きな負担であるから、その経営資源は出来るだけ実入りの大きな所に割り当てる事が求められる。結果、採算が確保できない路線からは撤退することになるのは当然の成り行きでもある。
 
空港の存在は、観光、旅行商品づくりにおいても大きな要因ではあるが、航空会社にとっては観光客はあまりおいしい顧客では無い。多くの観光客は、旅行代理店などを使って団体包括料金で利用するから単価は小さいし、季節変動も激しいからだ。むしろ、正規料金を支払ってくれ、かつ、あまり季節変動も無いビジネス客の方が優良顧客となる。マイレージサービスなどで顧客の囲い込みを行っているのもその現れであるし、インターネットを利用したチケットレスサービスなども顧客としてビジネス客を強く意識している。近頃、新設されている地方空港は当初から観光需要を見込む事が当然となっているが、観光客を確固たる顧客とすることは非常に難しいと考えるべきだ。
 
当然ながら、航空会社にとっては、多くの地方ローカル線は採算的に厳しいものとなる。地元としては、多くの路線開設を望み、そして、それが赤字となっても、なんとか継続してもらうよう様々な手段を講じようとする。しかしながら、かつての国鉄の地方ローカル赤字線を、地元の利用促進策によって継続させることが出来なかったように、財政的な補填などによる需要の嵩上げでは、いずれ破綻が来てしまう。鉄路の場合、それでも、「風雨に強い/時間が読める/大量輸送に向いた」という道路に勝る利点があり、それが、存続理由ともなったが、空路の場合にはそうした公共の福祉的な理由も存在しない。
 
このような状況において、どういった事を考えたらよいのかについて考察してみた。
 
まず、空港そのものを目的地としてしまうことが挙げられる。例えば、千歳空港は北海道のハブ空港として多くの路線と乗降客を抱えているが、同時に、巨大な物産センターともなっている。道内の他の空港の多くが貧弱な施設であることを考えれば、道内からのアウトは千歳空港を選択したくなるのが心情である。ツアー会社としても、便数の多さに加え、千歳空港なら早めに到着してもお客さんが飽きることが無いので、余裕を持った日程をくむことが可能となる。旅行は最後の印象が重要だが、その点でも、快適で物販が揃った千歳空港の方が、他の空港に比べ満足度が高まることは間違いない。
同様に香港国際空港や、マレーシアKL新空港なども巨大なショッピングセンターであり、トランジットであっても魅力的なものとなっている。鉄道駅が単なる駅機能から総合的な商業機能を持ち始めているように、空港にだって様々な機能が集約されて行くことが求められよう。
既存の空港ターミナルを拡張することは難しいだろうが、隣接地にそうした機能を備えることは可能ではないか。
 
次に来訪者の立場に立った交通体系の確立がある。地方空港の多くは、鉄道をライバルとして抱えている。時間的な優位さはあるものの、空港までのアクセスが煩雑であったり、使いやすい時間に便が設定されていないなどの不利も抱えている。また、地方空港の多くは駐車場を無料開放しているが、これによって地元民もバスやタクシーを使わなくなるため、結局、これらの交通機関が発達せず、空港からの公共交通機関がほとんどないというところが多い。一方で、タクシー、バス乗り場や利用者駐車場はターミナル直近に用意されているものの、レンタカーはカウンターがターミナル内に用意されているだけで、実際の事務所は敷地外に設定されている事がほとんどだ。一般に、レンタカー業者がターミナルから送迎はしてくれるものの、目の前に大きな駐車場があるのにそれが活用できないという不合理さがある。駐車場の無料開放が悪いとは言わないが、来訪者の立場に立ってみれば、いかに空港から目的地に移動できるかが重要であり、こうした使いづらい、陸の孤島のような現状は大きく飛行機利用欲を減退させる。ライバルの鉄道、それもJRでいえば、トレンタくんのように、鉄道とレンタカーをセットにした商品を昔から開発している。このレンタカーは、多くの場合駅前広場内に用意されており、地元の人と同じ、もしくはそれ以上に便利な状態で車によるイン・アウトが可能となっている。
また、空港から市街までのバス便が時間がかかったり、不評であるなら、バスそのものに魅力を付けることを考えても良いのではないか。バスとて採算性はシビアではあるが、例えば、空港で預けた荷物がそのままバスに詰め込まれるようなサービスがあっても良いし、オンデマンドで視聴できる観光案内のようなものがバス内に用意されていたって良い。ビジネス客が多いなら、主要施設への到着予定時間や市街地内の地図サービスなどがあっても良いだろう。要はバスに乗っている時間が苦痛であったり、無駄な時間であったりしないようなものとすることが検討されるべきであろう。
 
ところで、便数は、結局の所、利用客数に比例しているもので、それだけのバックボーンを創造できなければ確保は難しい。旅行商品の開発はそうしたバックボーンを創造することでもあるが、交通アクセスの改善だけで旅行商品が飛躍的に増加するものではなく、結局は、受け地側の観光地の資質や体制によることが多い。極端な話、大幅な交通アクセス向上は宿泊客を減少させ、日帰り型へシフトさせてしまう場合も少なくない。ここは見方を変えて、空港という資産を有効活用するような事を考えてみることは出来ないか。
 
空港は、巨大なインフラでありながら、使っていない時間はただの空き地と変わらない。であるなら、個人向けの飛行場とするような事は考えられないか。ヨットハーバーがあるのだから、プレーンハーバーがあったって良いだろう。問題は、ライセンスも飛行機機材も高価だと言うことだろう。しかし、最大のコストがかかる飛行場に比べれば、ライセンススクールの開設などは誤差のような費用でしかない。飛行機機材もけっして安いものではないが、飛行倶楽部や基金を作り、そこの共有とするとか、いろいろとアイディアはあろう。要は、持続的な活動として運用しいけるようにすることが課題であろう。日本では、個人レベルで飛行機を飛ばすというのは非常に敷居の高い話だが、飛行機にあこがれを持っている人は多い。環境さえ整えば趣味としての飛行機が確立される
個人レベルでの飛行機活用が進めば、飛行場はキャリアだけのものではなくなり、地元住民が日常的に活用できるインフラへと変化する。また、商業路線では難しい地方空港同士の路線も、個人レベルであれば話は別であり、例えば、東北の空港から北陸や北海道へと飛行機で出かけることも可能となり、地域間の新たな交流軸とも成りうる。
 
また、人を呼ぶという視点に立てば、往年のレシプロ機などを交えた航空ショーや展示会といったものも考えられる。日本では航空ショーというと自衛隊がやっている程度だが、これとて、騒音問題や安全性の点で、そうメジャーなものではない。
しかしながら、米国では一般的に行われているし、各種航空機材を集めた展示会なども実施されている。ただ、地方ローカル空港では、後背人口は小さいし、距離の壁もあるから、人を多量に集めるのは難しい。むしろ、航空マニアなどを対象に、小規模でも特別な飛行機(カラーリング、機体の種類など)などを素材としたものが良いだろう。例えば、ちょっとした展示エリアを設けておいて、退役する飛行機のラストフライトを誘致し、フライト後、一定期間、その展示エリアで展示するといった事が考えられる。
 
空港を単なるキャリアのための施設ではなく、公共のインフラだと考え、自由な枠組みでその利用策を考えれば、他にも様々なアイディアが生まれるのではないか?