ダイビング料金についての考察

 

地域的な価格差

ダイビング雑誌などで料金表を眺めていると、ダイビング料金はほぼ地域ごとに横並びであることが解る。伊豆地域では2ビーチで12,000円、2ボートで18,000円といった所。これが伊豆諸島に行くとそれぞれ10,000円、16,000円と2,000円程度安くなる。沖縄になると、ボートが前提となり、2ボートで12,000円前後が一般的となる。
もちろんショップによってばらつきもあるし、各種割引の有無もあるので厳密な数値ではない。また、伊豆諸島や沖縄などではパックツアー客が増加するため、ショップの実入りはもっと低い。よって単純比較はできないのであるが、概ね、同一地域であれば料金は横並びであり、市場から遠くなるほど安価となっている。
が、そもそもの利用人数を比べれば伊豆諸島や沖縄の方が伊豆よりも少ない。ショップ、サービスの収入は、客単価×人数で決定されるが、伊豆は双方が高く、地方は、双方が低いという状況になっている。
 

サービスの守備範囲

伊豆は、無数のダイビングサービスが立地し、かつ、スポットが細分化されているため、ある意味、特定スポット専従というサービスが多い。一方、伊豆諸島や沖縄などではショップの地域的な守備範囲はより広域的なものとなる。
また、伊豆などではショップまで消費者自らが自動車で来訪することが主体であり、送迎などの手間は少ないが、伊豆諸島や沖縄などでは空港や宿泊施設などの送迎もショップが負担するケースが多い。
これにみられるように消費者に対するサービスの守備範囲は、伊豆諸島や沖縄の方が大きい。ダイビングの場合、利用者がこれらのサービスを対価としてどの程度評価するかはともかく、サービス範囲という点でみても、料金体系にはギャップが生じている。
 

伊豆の割高感

こうしてみると、伊豆の「割高感」が際だってくる。それとも、伊豆諸島や沖縄が「割安」とみるべきなのか?。
人件費や施設費で見れば、伊豆にショップを構える場合と、沖縄で構える場合であれば、伊豆の方がコストがかかるという理由もあろう。市場に近いということは、それだけ、競争相手も多く、リニューアル投資や広告代がかさむという事も言える。
一概に高い、安いとは言えないのだが....。
 

高いか安いかは消費者が決めること

結局、サービス業の価格を高いと見るか安いと見るかは、消費者が決めることでしかない。絶対金額として割高であったとしても、利用者(消費者)が、それを良しとすれば「妥当な金額」であるし、いくら割安であったとしても、満足しなければ「高い金額」となる。逆に言えば、安くしなくても客がついてきてくれるのであれば、値下げを行う必要性は低い。この辺は、価格弾力性とも関わってくるわけだが、ダイビングの場合、価格弾力性が消費者によって大きく異なるように思われる。
 

価格弾力性

価格弾力性とは、価格が1%変化したときに、需要量が何%変化するかを表すもので、「価格弾力性が大きい」とは、価格の変化に対して需要が大きく変化する事を示す。
そもそも、ダイビングは、消費者の立場に立てばいかのパターンに分類される。
  1. なじみのサービス/ショップがあり、そこを選択
  2. 潜りたいところ」が先にあり、サービス/ショップはそこから選択
  3. 旅行先などで付加的なレクリエーションとして、手近のサービス/ショップを選択
まず、1であれば、サービス/ショップがすでに特定されているのだから、価格弾力性は非常に低い。
2のケースでも、価格よりは、「潜りたい」という欲求の方が上であるから、サービス/ショップの料金自体に対する価格弾力性はそう高くない。しかしながら、「潜りたい」というような地域の場合には、往復のアクセスの料金(や時間)が障壁となっている事が多い。そのため、ツアーなどで往復アクセスがパックされた場合、価格弾力性は高くなる傾向にある。
3の場合には、そもそも主たる目的でないため、一般に価格弾力性は高くなる。ただし、そもそもCカードが必要であり、準備にも時間がかかるため、価格弾力性には限界が生じる。
伊豆をフィールドとするサービス/ショップの多くは、1のタイプの顧客を抱えていることが多い。「何しろ近い」為、週末などを利用してグループでの容易に出かけることが可能である。グループで移動する機会が増加すると、そのコミュニティを通し、なじみのイントラやサービス/ショップも形成されやすい。また、都市型と呼ばれるショップがその目的地として利用するケースも多く、さらに、消費者とサービス/ショップの結びつきは強まる事になる。
一方、伊豆諸島や沖縄などでは、2や3のケースが多くなる。そのため、価格弾力性は高くなり、価格は上げづらくなる。前述のように「同一エリア同一料金」という現状では更に価格は上げづらくなる。逆に、顧客を確保するために、各種割引やサービスを実施するため、実勢価格は下がってしまう。
 

価格戦略の考え方

つまり、1のタイプの顧客を多く抱えているサービス/ショップは、価格競争をする必要性が低く、ある程度の水準の価格を維持できる。一方、2や3のタイプの顧客が主体のサービスや/ショップでは、価格の下げ圧力が強く、定価、実勢価格ともに相対的に低いものとなってしまう。
この場合、そのままでは利益が圧迫されてしまうから、対策をとらねばならない。一つは、ユニクロや、マクドナルドのように、価格を下げても利益が出るような体制に作り上げることである。もう一つは、1のタイプの顧客、すなわち固定客を確保する事である。
前者は、規模の経済、すなわち組織力が必要であるため、個人経営の多いダイビングサービス/ショップの場合、実現は難しい。(個人経営だからこそ、効率化の余地があるとも考えられるが...)
よって、多くのサービス/ショップでは後者の方法をとることが求められる。実際、このことを指向しているサービス/ショップは数多い。
 

顧客確保の難しさ

が、固定客を確保することは、全サービス産業での命題とも言えるような事であり、「言うが安し...」の典型例でもある。
伊豆や都市型ショップが固定客を比較的多く確保している背景には、大きな強みとして市場の近さがある。また、Cカード取得、オープンウォーターからイントラまでのステップアップという構造化されたライセンス形態の存在も無視できない。自動車の教習所は免許取得したら二度といかないが、Cカードは、ステップアップする度に再来訪し、結びつきが強まるという構造にある。市場に近く、ライセンス取得と密接に結びついている伊豆や都市型ショップの優位さはここにある。
よって、伊豆や都市型ショップと同じ事をしても、沖縄のショップでは固定客を確保することはできない。
 

顧客満足度の向上

構造的な仕組みではなく、自力で固定客、ファンを作るには、顧客満足度(CS)を高めることが有効だと言われている。
特に、近年、様々な分野において顧客の選択眼が高まってきており、その選択眼にかなうだけのCSを提供できなければ、生き残れないとも言われている。
ダイビングサービスも同様であり、ファンを作るには、様々な付加価値を提供することで、CSを向上させることが求められよう。
ガイドの面白さや、アフターダイブの楽しみ提供など様々な取り組みがその一例として挙げられる。
 

誰を顧客とするのか

ただ、これだけでは不十分である。
伊豆諸島や沖縄のような立地の場合、多くの来訪者にとって、1年に1度のとっておきの旅行であるからである。いかに顧客満足度をあげたとしても、翌年は、また、違うところに行ってみたいと思ってしまう。
他所に浮気をされないだけの、非常に強いファンを作るための対策も必要であるが、現実的な問題として、それだけの非常に高い顧客満足度を得る事は、コストもかかる。また、ダイビングという性格上、加齢や経済状況、勤務体系、生活環境など様々な要因により、顧客側が継続不能となる場合もある。これは、コストをかけて強固な顧客としても、そのつきあいは短期に終わってしまう可能性が高い事を示しており、事業的な側面から考えれば必ずしもよい選択ではない。
 

顧客の連鎖という考え方

ここで、重視したいのは、「顧客の連鎖」という考え方である。
ファンとなってくれた優良顧客をスポークスマンとして活用することで、あらたな、顧客を創造するのである。
情報過多とも言える現在、至宝の価値を持っているのが「口コミ」であり、これを活用する事は非常に大きな効果が期待できる。
この場合、既存の顧客を大切にしながら、その顧客を核にさらなる顧客を形成する事になるため、価格競争などで顧客を得るよりも、はるかによい筋の顧客を得ることが出きるし、CSも上げやすい。
 

強みを明らかにする

顧客の連鎖を志向するにしても、まずは、その元となる「ファン」を確保する必要がある。
ファンの確保のためには、CSの向上が有効だと前述したが、万人を満足させることは不可能である。たとえ、そうした対応ができたとしても、コストがかかることになるから、事業的に成立はしない。
よって、「確保したい顧客」のCSを向上させる事を第一に考えるべきである。
年齢は?、ダイビングスキルは?、ダイビングスタイルは?、個人?、グループ?、考えるべき要素は多々ある。そして、そこから導き出される「目標像」と、自らの「強み」を合致さえなければならない。
例えば、中高年層は「金払いが良い」と思ったとしても、自らがそうした層の人々と会話が成立させることができなければ、CSを上げることは困難である。
顧客に合わせる事も大切だが、中長期的には、強みを活かし、自らにあった「顧客」を確保していくことの方が重要である。
 

まだ途上

価格の話を中心に話を展開したが、かつてのスキーのように、「ダイビングをやることが第一」で「その他の宿泊などは二の次」という顧客に頼っている間は、発展の余地は少ない。こうした顧客は、非常にコアな人々であり、それを支えているのが、Cカードのステップアップ制度でもあるわけだが、大衆化と引き替えにスキーのバッジテストがほとんど意味を持たなくなったように、階層、ヒエラルキーに頼ったレジャーは限界が来る。
しかも、今後、若年層が減少していく中で、新規参入者に頼った構造には限界が生じている。
一方、ホテルに付属のダイビングサービス・ショップは、快適ではあるが、価格が非常に高い。これでは、苗場プリンスに泊まると、リフト券が割高になるという事と同じで、非常に不合理である。
逆に言えば、そうした狭間に落ち込んでしまっている顧客が膨大に眠っている訳であり、そうした顧客の掘り起こしと確保が今後の課題となろう。