仮説:カタストロフィ理論とスキー市場

減少するスキー市場

1993年前後にピークにスキー市場は減少傾向にある。
その背景は、「暖冬・雪不足」とか「景気の低迷」と論じられてきた。実際、1993年以降、毎年のように暖冬傾向にあったし、景気の低迷は消費者の財布の紐を締め、金と時間のかかる(というイメージの)スキーは敬遠される傾向はあったであろう。
ただ、もしかしたら、それはきっかけであり、実は、もっと大きな目に見えない流れにスキー市場が巻き込まれたのでは無いか?と考えている。
それは「カタストロフィの法則」である。

カタストロフィの法則とは

万事、永遠に続く物などは無い。これは真実である。どんなに栄華を誇ったとしても必ず終わりは訪れる。
カタストロフィの法則は、こうした「終わり」の法則であり、「再生」の法則でもある。
この法則によれば、崩壊&再生は以下のようなパターンで訪れる。

一番解りやすい例が、戦国時代であり、勢力Bが織田信長、勢力Cは豊臣秀吉、勢力Dが徳川家康となる。近年で言えば、勢力Aが自民党、勢力Bが日本新党、勢力Cは自民党&社会党VS新進党、勢力Dは自民党&公明党VS民社党と当てはめられる。
それぞれの場面において時間軸は様々であるし、大きなカタストロフィの中に小さなカタストロフィが生じるなど多段的な事もあったりと、多分に後付的な解釈となりがちであることは否定できないが、考え方として興味深い。

スキー市場のカタストロフィの法則

スキー市場に当てはめてみると、
勢力A(クラシック)スキー
勢力Bスノーボード
勢力Cカービング&ファン&スノーボード
といった所では無いだろうか?。
勢力Aが衰微する原因とはいろいろあるが、これも一般的な歴史から考えれば、華美になったり、大型化が進む中で、「安定」が退廃や窮屈さ、閉塞感を生み、それが反体制勢力Bを生む土壌となる事が多い。スキーで言えば、ファッションや、基礎スキーを中心とする滑走スタイル、カップルやグループでの行動パターンといった物が流行として画一化された事が、その原因に相当しよう。
そうしたアンチテーゼとして生まれたのがスノーボードであったわけで、対極的なファッション、滑走スタイル、行動パターンといったものが生まれた。
スノーボードに対するスキー場側の対応は様々な物であったが、安定勢力であったAが衰微したことは、市場の縮小を意味しており、結果として新興勢力Bを取り込む事が求められてきた。
しかしながら、本来、BはAのアンチテーゼとしての位置づけが大きいから、その基盤は脆弱である。一方、潜在的には圧倒的な勢力でありながら、新興勢力Bの登場に右往左往し自らの目的や意義を失ってしまったのが勢力Aである。実際、スノーボード市場は一見華やかだが、スキー市場全体の市場規模から言えば一勢力に過ぎないのが現実であるし、また、熱心に楽しんでやっている率はボーダーよりスキーヤーの方が高いという調査結果も出ている。

ところで、勢力Bの候補はもう一つあったと私は思っている。それは、モーグルである。1992年頃、一時、急速にモーグル熱が高まったが、これも基礎スキーを中心とする滑走スタイルに対するアンチテーゼであったように思う。しかしながら、モーグルは技術的に非常に高いハードルであり、また、勢力Aの延長上にあったため、勢力Bを築く所にまでは行かなかった。

こうした状況の中で、AとBの中間勢力としてカービング&ファン&スノーボードといった図式が1999/2000シーズンから本格的に広まってきている。これは、言ってみればスノーボードの自由さをクラシックスキーに持ち込むようなものであり、典型的な勢力Cであるといえよう。
ただ、この法則に従うなら勢力Cは所詮、暫定勢力であり安定勢力ではない。勢力Bに比べれば安定しているが、不安定さを抱えている間は、市場規模の大幅な拡大は見込めない。良くて横這いといった所であろう。なぜなら、「安定」するということは、それだけ人々の支持を集めるということと同意語だからだ。

スキー場はどう対応すべきか

勢力C台頭の兆しは見えるが、実のところ、対応が難しくなるのはこれからかもしれない。
勢力Bが台頭している間は、言ってみれば市場は衰微した勢力Aとそのアンチテーゼ勢力Bという解りやすい図式であるが、勢力Cの登場は、その図式を崩し、全く新しい勢力図を作り上げることになるからである。
こうした新しい価値観は、市場においては様々な方向性を持ち、新旧が入り乱れ、混乱を生じやすい。
勢力Cをカービング&ファン&スノーボードというような3軸で示したが、スノーシューや、チュービングなど様々なアクティビティも誕生し、市場に投入されている。つまり、勢力Cはとりあえず、方向は決まったものの、収束した訳ではなく、様々な価値観が入り乱れている状況なのだ。
おそらく、今後、様々な事が模索され、スキー市場は細分化されていくことになろう。
ただ、これは勢力Dに収束する前段階での混乱であることを考慮すれば、多様化するからといって全方位対応する必要は無い。いろいろなことが試されたとしても、結局は「解りやすい」ものへと収束するからだ。

生き残る市場を見つける

よって、スキー場にとって必要なことは安定勢力Dの母胎となる市場を自分の市場とすることだ。
そのためには、消費者の立場に立って潜在的なウォンツを見いだしてやることが必要であろう。
例えば、

  1. 少子高齢化が進む中、団塊世代、団塊ジュニア、団塊ジュニアジュニアという3世代がどういったスキーを望むのか?。
  2. 女性の社会進出で共稼ぎ世帯が増加するが、そうした世帯はどういったスキーを望むのか?。
  3. ITへの投資が高い若年層にとって快適で格好良いスキーとは何か。
  4. (クラシック)スキーをやっていたが、ここ数年遠ざかってしまった人が再度、スキーを始めるときにはどんなことを望むのか。

といった事である。
こうした考察の中から、各スキー場の素養にあった市場を見つけていくことが求められよう。

戦略的な視点で

現状の問題点、例えば駐車場が狭いとか、従業員の応接態度が悪いといった事を解決していくボトムアップ型の対策も必要であるが、中長期的な展望に立てば、市場が望むスキー場像を設定し、そこからトップダウン型に各施策を行うことが重要となる。特に市場の多様化が予想される中では、全てに対応することはほぼ不可能であり、トップダウン型に思考し各施策に優先順位をつけて実行していくことが求められる。でなければ、結局、各施策は閾値に達することが出来ず、無になってしまう可能性が高い。
混迷を深めるスキー市場の中、こうした「戦略的な視点」がなによりも重要になっているのではないだろうか。