閾値の効率的な超え方
     

□投資だけが全てではないが


どうも観光地・観光施設整備というと最終的に投資規模が問題になり、それが、ひとり歩きし、結果、箱物行政的なアプローチとなってしまう事が多い。
とはいえ、閾値を超えるということにおいても、投資規模は重要な要素である。
98年12月に閉園してしまった九州大牟田市のネイブルランドは当初130億円超の計画であった物が、紆余曲折の末、60億円程度にまで減額されたという。
至近にホテルまで備える三井グリーンランドが存在しており、また、ハウステンボス、スペースワールド、宮崎シーガイヤといった大型テーマパークが同じ九州エリアに立地しているという状況下においては、60/130億円の計画では閾値を超えることは不可能と言って良い。

□投資と回収のバランス


ところが、閾値を超えたからといっても、それが採算ベースに乗らなければ何の意味もないという点も忘れてはならない。
投資規模が大きくなれば、閾値を超える可能性は高くなり、多くの集客が出来るようになるだろうが、それと、採算がとれるかどうかは別の問題である。採算がとれなければ、当然ながら運転資金は乏しくなり、結果、施設の維持管理や従業員の質確保などに問題が生じることとなる。そうなれば、遅かれ早かれ破綻が待っている。閾値を超えるための投資と思っていたものが、実際には、実態のないマーケットを対象にした影に過ぎなかったという事だ。
これは何も、テーマパークや大規模リゾート開発だけの問題ではない。
また、バブル期だけの話しでもない。

□快適さと整備水準


観光は、いってみれば消費者に対して”楽しさ”や”快適さ”などを提供するサービスである。
本来、楽しさ、快適さといったものには無限の解があるはずだが、どうにもハードウェアに偏重してしまう。それも、手を抜かない。というか要領が悪い。

ラスベガスにテーマホテルと呼ばれる派手なホテル群が立地しているが、外見は凄いが窓が全てはめ殺しだったり、鉄骨がむき出しのままだったりと、内部は手が抜けるだけ抜いている。また、世界的なリゾートチェーンである地中海クラブのホテルにしても、その多くは決して広くて豪華なわけではない。
それでも、利用者は満足している。十分以上に、「楽しませてもらっている」からだ。

また、ディズニーランドでは、白雪姫の城を始め建物や通りをパースをつけて建てている。そのため、実際よりも高く、広く、長く見える。そうかと思うと、東京ディズニーランドやディズニーワールドでは、園内から「俗物」が見えないように配慮されているし、ゴミの収集などには惜しげもなく労働量を投入している。

九州のある温泉旅館は、お世辞にも立派とは言えないたたずまいであるし、大部屋に宴会場という旧態依然とした団体客向けの施設となっている。老朽化も激しい。
が、非常に盛況である。周辺の温泉旅館は皆、閑古鳥が鳴き、閉館しているところも多いにも関わらずだ。
その秘訣は、安さと、九州のゲートボールクラブなどの高齢者団体を中心にプロモーションをかけ、専用バスでピックアップして回っていることにある。高齢者にしてみれば、安価であるだけでなく、気のあった仲間同士で気軽に来訪することが出来る。
公共交通機関の発達していない地域であること。高齢者だけの世帯が多いこと。農業一筋で余暇の経験があまり無い人が多いこと。といった様々な要因が成功の背景にある。

□ローコストなら良いわけでもない


ところで、バブル崩壊後、国内では一時期、急速に「安近短」と呼ばれる旅行形態が広まった。これはバブル時の反動と言える面が多分にあるが、これに併せて、価格破壊と言われるような現象も多く起こり、価格面のみの競争が加速化した。
これはこれで不透明であった料金形態や、複雑な流通経路などを是正する上で大きな意味を持っていたが、一方でサービス水準などの低下をも招いている。
顕著な例で言えば、旅館が食事の部屋出しを辞めたり、パートやアルバイトの増加などによって従業員の接遇水準が低下した事が挙げられる。
安さに魅かれてきた消費者であっても、対価として求めるものは千差万別である。しかしながら、「安さを求める消費者」というイメージだけが先行してしまっている感は拭えない。
観光では無いが、一時期、スーツの激安競争が起きたことがある。マスコミなどにも多く取り上げられたが、そのブームは長くは続かなかった。消費者が「いくら安くてもスーツの用に耐えられない」と判断をした結果だ。
観光地、観光施設に対しても同様だ。単なる価格競争では先は無い。

□ニーズの中核はどこに


ここから解るのは、消費者が何をもとめて来訪してくるのか?を的確に掴めているのかどうかという事だ。CS(顧客満足)という言葉は古くて新しいが、CSを考える上で「コア・ニーズ」と「フリンジ・ニーズ」は重要な意味を持っている。コア・ニーズは、それを満足させておかなければ、事業の競争力が維持できないような基本的なファクターであり、フリンジ・ニーズは購買決定の根幹に関わるほどでもないものである。
このニーズの違いを見極めないで、振興計画、整備計画をたててしまうと、投資規模が増大するわりには、見返りが少ない、場合によっては全く効果が無いという事にもなる。
では、どうやってニーズを見極めるのか?。

それは結局の所、マーケティング能力を高めるしかない。

□効率的な閾値の超え方

ニーズを見極めることが出来れば、結果、絞り込み、集中化戦略を取ることが出来るようになる。

つまり、閾値を超えることも容易になると言う事である。

逆に言えば、閾値を効率的に超えるには、自らの強みを把握するだけでなく、消費者のコア・ニーズ/フリンジ・ニーズを的確に把握することが欠かせないと言うことである。